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カラヴァッジョ の 殺人

1606年、35歳で、殺人。その後、「洗礼者聖ヨハネの斬首」で、ローマ教皇から罷免されるわけだけど。

カラヴァッジョ(カラバッジオ)の場合は、強烈な個性とか、気難しいとか、激情にかられやすいとか、芸術家気質に使われる言葉が装飾されるよね。

それはなんで?
明暗法やリアリズム、革新的絵画で、誰でも「天才」という名をつけたがる、イタリアバロック絵画の巨匠だから?研究の対象になるから? だから「殺人者としての数奇な生涯も魅力的(引用)」になるわけ?

その芸術の本質と、カラヴァッジオの人格を比べるつもりはないよ。だから、その気性や贖罪意識の反映などという作品鑑賞も必要ないと思ってるんだ。

ある作品において、カラヴァッジオは、殉教を暗示し悼み、その身を案じるという検証がなされたとあるが、これも気性や贖罪意識同様に、その芸術の本質と比べていいのかな。

その芸術の本質を賞賛するべきで、カラヴァッジオの人格を擁護する必要がないわけだよね。

ミケランジェロ・メリーシ・ダ・カラヴァッジョの場合、「殺人の果ての逃亡生活。しかし・・・」がつく。でも、十代の頃から、仲間の殺人事件に関わって、ミラノからも逃亡しているっていう。もともと、「殺人」ということに、罪の意識も悔悟もなかったから、逮捕歴も更新し、常に剣を持っていた。(相手が死に至らなかったからこそ、連続「殺人」犯とならなかったんだね。)

殺人の逃亡先は、マルタ島。なぜ、ここなのかっていうのが、「騎士号」を手に入れるためなんだよね。男爵以上の貴族の称号は、たいてい生得的地位でしょ。カラヴァッジョは、殺人後に、この地位を手に入れるため、アロフ・ドゥ・ヴィニャクール(マルタ騎士団)の肖像を描いている。そして、「騎士号」をせしめたわけ。名誉的称号と階級を手に入れたんだ。

カラヴァッジオは、二週間ほど絵を描いたあと、次の二ヶ月は剣を腰に下げ、小姓を連れて街に繰り出し、いつ争いが起きてもおかしくない風情で、歩き回る。賭けテニスの賭金の支払いで、おなじ「ゴロツキ」の有力者の息子、ラヌッチョ・トマッソーニと争い、刺殺する。死刑宣告を受ける前に逃亡。


だが名声は衰えず。

つまり、カラヴァッジョの場合、相手が死に至るか至らないか、猟奇か猟奇じゃないかで、ジャック・ザ・リッパーの容疑者と名指しされたウォルター・リチャード・シッカートへの性質とは違うんだね。不思議。

CARAVAGGIO 作品一覧と画像リンク
Paintings between 1593 and 1596 by CARAVAGGIO
病めるバッカス/果物をむく少年/果物かごを持つ少年/蜥蜴に噛み付かれた少年/聖フランチェスコの奪魂/音楽家たち/女占い師/いかさまトランプ師/リュートを弾く人(1600)/リュートを弾く人(1596)/バッカス が見れます。

Paintings between 1596 and 1598 by CARAVAGGIO
女占い師/マグダラ/エジプト逃避途上の休息/果物かご/アレクサンドリアの聖女カタリナ/アレクサンドリアの聖女カタリナ が見れます。

Paintings between 1598 and 1600 by CARAVAGGIO
ホロフェルネスの首を斬るユディト/娼婦の肖像/キリストの捕縛/メドゥーサ/ナルキッソス/マッフェオ・バルベリーニの肖像(機卿マッフェオ・ヴィンチェンツォ・バルベリーニ)/バプテスマのヨハネ が見れます。

Paintings between 1600 and 1603 by CARAVAGGIO
ダビデ/イサクの犠牲/聖トマスの懐疑/エマオの晩餐/アモルの勝利 が見れます。

Paintings between 1603 and 1606 by CARAVAGGIO
埋葬/荊冠のキリスト/庭のキリスト/洗礼者ヨハネの説教(1603-04)/洗礼者ヨハネの説教(1604)/ロレートの聖母/聖ヒエロニムス(St.Jerome 1605-06)/(執筆する)聖ヒエロニムス(St.Jerome 1606)/ 聖母の死 が見れます。

Paintings between 1606 and 1607 by CARAVAGGIO 
殺人事件以降の作品
見よ、この人だ/エマオの晩餐(1606)/パラフレニエーリの聖母(蛇の聖母)/瞑想の聖フランチェスコ/聖フランチェスコ/ダビデ が見れます。

Paintings from 1607 by CARAVAGGIO
慈悲の七つのおこない/聖アンドリューのキリストの磔/(キリストの)鞭打ち(円柱のキリスト)/コラムにおけるキリスト/洗礼者ヨハネの首を持つサロメ/ロザリオの聖母 が見れます。

Paintings between 1607 and 1609 by CARAVAGGIO
聖ヒエロニムス(St.Jerome 1607)/アロフ・ドゥ・ヴィニャクールの肖像(1607-1608)/アロフ・ドゥ・ヴィニャクール(マルタ騎士団)の肖像(1608)/洗礼者ヨハネの斬首/眠るクピド(キューピッド)日本語では 「 眠るアモル 」らしい/聖ルーシー(ルシア)の埋葬/ラザロの蘇生 が見れます。

Paintings between 1609 and 1610 by CARAVAGGIO
受胎告知/羊飼いの礼拝/キリスト降誕 聖ラウレンティウスと聖フランチェスコのいる礼拝での降誕/バプテスマの洗礼者の首をもつサロメ/ゴリアテの首をもつダヴィデ/洗礼者ヨハネ/ペテロの否認/聖ウルスラの殉教 が見れます。

Paintings in the Contarelli Chapel (1599-1600) by CARAVAGGIO
聖マタイの召命/聖マタイの殉教/聖マシューと天使/聖マシューの霊感

Paintings in the Cerasi Chapel (1600) by CARAVAGGIO
聖ペテロの磔刑/聖パウロの改宗/聖パウロの回心/聖パウロの井戸/ジュピター、ネプチューンとプルート/イサクの犠牲(1605 ジョンソンコレクション蔵)/荊冠のキリスト(ウィーン美術史美術館)/スティルライフ 花と果実(1590)

Other paintings attributed by CARAVAGGIO
洗礼者ヨハネの説教/歯抜き師/バプテスマの聖ヨハネ

400年ものあいだ、「模写」と思っていたカラヴァッジョの「聖ペテロと聖アンデレの召命」という邦題の作品。今年の11月(2006年11月10日)に、真筆とわかり、エリザベス女王もお喜びだそうな。(王室の立場で、「模写」として殺人画家の絵画を封印していたんだと思うけど)

The_calling_of_saints_peter_and_andrew

The Royal Collection 英王室コレクション

The Calling of Saints Peter and Andrew c. 1603-6

by Michelangelo Merisi da Caravaggio

僕がこの犯罪に関わる画家の画像をアップロードしたのは、まだ「殺人者」の烙印まえの作品だから。

ジャック・ザ・リッパーの殺人は、「殺す」という凄まじさ。カラヴァッジョの殺人は、現代の犯罪と同じ。若い世代が、短絡的に友人や周囲を殺害してしまったというものだ。「はけ口」としての殺人。どちらも質が悪い。

パトリシア・コーンウェルが、ジャック・ザ・リッパーの犯人を、神格化されてはならないと言っている。(でも、画家が殺人者ということに、「好み」という連想を発する者も多く、もう汚染されている現代。カラヴァッジョが、2002年2月28日まで流通していたイタリア国通貨100.000リラ紙幣になったことも、その象徴。)

陪審制度がはじまったら、才能や功績のある人物への殺人には、温情判決がくだるのかなぁ。

こういうカラヴァッジオを賞賛するのではなく、作品の本質をひろめるべきで、これが専門家や研究者の役割でしょ。殺人を犯した画家を魅力的という解釈が発生しているのは、問題がある。これから育つ子供達が、そういう文章を目にして、どうなるの?殺人も個性にすませるのか。

殺人を犯した画家が描いたから排除するのでもなく、また画家を擁護するのでもなく、その作品そのものを取り上げて欲しい。