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サンドロ・ボッティチェリ ヴィラ・レンミ

今日はボッティチェリのフラスコ画。ヴィラ・レンミ(別荘レンミ)に描かれた、2枚のフラスコ画。


ルーブル美術館所蔵で展示されているものは、かなり痛みが激しいよう。1481年に描かれている、ボッティチェリの「受胎告知」も同様で、現在は修復されるから、この2枚の修復もありえるかも。


受胎告知は下に記事リンクしているからみて。


それでさ、僕は、ヴィラ・レンミの「自由七学芸へ導かれる若者」がとっても気になるんだ。描かれているミューズらが手にしている蠍と弓のようなものがね。


まずは、1枚目。


Lemmi_03_400

「ヴィーナスと三美神から贈り物を受け取る令嬢」1484-86年
Venus and the Three Graces Presenting Gifts to a Young Woman

あるいは「ヴィーナスと三美神とジョヴァンナ・デル・アルビッツィ」


これまでは、アルビッツィ家(Albizzi)のジョヴァンナ(Giovanna)を、この令嬢に見立ていた。だが妹説もあるんだな。


ジョヴァンナは、反メディチ家の令嬢で、メディチ家と親しいトルナブォーニ家のロレンツォに、1486年に嫁ぐことになり、「和解」の象徴と「結婚祝い」の贈り物として、トルナブオーニ家(Tornabuoni)から、ボッティチェリに依頼があり、その2枚が描かれたという。


サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のトルナブオーニ家の礼拝堂にはギラルダイオの壁画にジョヴァンナが描かれているからちょっと見て。


記事 サンタ・マリア・ノヴェッラ トルナブオーニ礼拝堂のメディチ家


一説にはジョヴァンナとされていた女性が、1484年にトルナブォーニ家のナンナに嫁いだ、デリ・アルビッツィ(degli Albizzi)ではないかということも言われいている。


だけどさ、ジョヴァンナの首飾りをつけてんだよね。


記事リンク先にジョヴァンナの肖像画があるからね、確認してみて。同じでしょ?


「春(ラ・プリマベーラ)」のひとつの説と同様に、三美神のひとりが、「貞操と純潔」を象徴し、痛みの激しい地上のヴィーナスは、美と愛を象徴しているという。


僕の疑問は、何を手渡しているのか・・・、というところ。ヴィーナスは「小さな丸いもの」を渡してる。


プリマヴェーラは下に記事リンクをずらっと並べてあるからそこからみてみて。


さて丸いもの。ヴェールに薔薇の花をいれるところらしい。


これが、「自由七学芸へ導かれる若者」へと繋がっていくんだな。


Lemmi_01

「自由七学芸へ導かれる若者」1484-86年
A Young Man Being Introduced to the Seven Liberal Arts

あるいは「自由学芸の擬人像とロレンツォ・トルナブオーニ」


「自由七学芸」(セプテム・アルテース・リーベラーレース septem artes liberales)として定義されたギリシア・ローマ以来の諸学を、セヴン・リベラル・アーツ Seven Liberal Artsという。


これに哲学が加わるんだけど、たいてい、中央に哲学を象徴する人物を、七学芸が取り囲む作品や、学問の神格マーキュリー(ヘルメス)と、擬人化された「文献学」の結婚式に、七学芸がアトリビュートをもって祝辞を述べる作品や、結婚の祝いとして七学芸を受け取った作品(文学、絵画)なんかがある。


ボッティチェリの「自由七学芸へ導かれる若者」では、「ロレンツォ・トルナブォーニ」、あるいは「ナンナ・トルナブォーニ」が登場する。僕はロレンツォだと思うけど。


いまだ誰が「彼」を導いているのか不明とされているミューズに手を引かれている左側の人物だ。「知性」の女神であり「自由学芸」と「科学」との守護女神であるミネルヴァ、あるいは七芸学をもって「哲学」とする擬人化なのか。


導かれるトルナブォーニ家の花婿は、「ヴィーナスと三美神から贈り物を受け取る令嬢」が、ヴィーナスから受け取った贈り物を白い織物の布で受け取る場面が描かれてるけど、自由七学芸へ導かれる若者は、その白い織物の布を携えている。


何度も言うけど、「ヴィーナスと三美神から贈り物を受け取る令嬢」で、ヴィーナスは「小さな丸いもの」を渡してるんだ。


The_virgin_adoring_300

※おまけの画像 KAFKA THANKS!


僕はね、ボッティチェリは、修辞学者 マルティアヌス・カペラ(Martianus Capella)の「マーキュリー(ヘルメス)と文献学識の結婚 (De nuptiis philologiae et Mercurii de grammatical. Ed: Franciscus Vitalis Bodianus)」やサン・ヴィクトールのフーゴーの「ディダスカリコン」を読んでいたのではないか・・・、そう思ったんだ。


サン・ヴィクトールのフーゴーの「ディダスカリコン」では、マルティアヌス・カペラ 「メルクリウスとフィロロギアの結婚」についても言及している。これに登場する七学芸は、三学の文法・修辞学・弁証法(論理学)、四科が算術・幾何・天文・音楽といわれているんだけど、これはマルティアヌス・カペラが定着させたわけ。


僕はボッティチェリの作品から、左二番目を、「弁証法(論理学)」としたのは、意味がわかんないけど、「蠍」を持っているから。カニバリズムの語源ともなったカリブ族の頭をもった「弁証法(論理学)」が描かれているものがあるから、そうじゃないかなぁと思ったわけ。寓意がわかんないね。蠍の毒をもって毒を制するってこと?


三番目を「修辞学」と思ったのは、タビュラ(タブラ・ラサ)っぽいから。だから左が「文法」で、巻物(書物)を手にしてるんだ〜と思った僕。ところが計算板だという。だからこの人は「算術」なんだって。


つまり巻物をもつ「修辞学」の人は左端っこなんだね。


さて、サン・ヴィクトールのフーゴーは、「数学は、算術、音楽、幾何学天文学に分かれるのである。」とも述べている。


Lemmi_02

※ ○印 は、天球儀と指矩。


どうでもいいけど、その矢のない弓は、計算尺なのかなぁ?そう考えるしかないよ、僕の知識の範囲では。だから、高い位置にすわるミューズは誰?


この人って「知恵」の擬人像だったらしい。


あとは、指矩を持っているから「幾何学」、よくみえない天球儀から「天文学」、いちばん右がタンブリンとポルタティフ(オルガネット)があるから「音楽」だよね。


これはさ、マルティアヌス・カペラ 「メルクリウスとフィロロギアの結婚」と同様で、結婚の贈り物に、ヴィーナスから受け取ったのは「七学芸」なんじゃないかなぁ。フィロロギア(文献学識, 哲学でもいい?)は、アルビッツィ家の令嬢で、手をひいているのが、トルナブォーニ家の花婿だ。


ゲッティコレクションが所有する、マスター・オブ・コーティヴィ(Coëtivy Master)の「Seven Liberal Arts」(1460年)の作品も思い出したよ。


セヴン・リベラル・アーツは、ボッティチェリにとって、格好の題材だったわけだよね。そして、メディチ家と親しいトルナブォーニ家の注文だよ。ボッティチェリを擁護するメディチ家は、フィレンツェ中の自由七学芸を擁護していたわけだから、その象徴でもあるんじゃない?


だから〜、蠍と弓のようなもの、いったいなんなんだろう。・・・・・。


それからKEIちゃん、画像アップ、ども!

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